← わたくし、今日からお嬢様になりますわ!~お嬢様に憧れて何が悪いんですの?~

第16話

庭園を立て直しますわ!

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 前回のお茶会。

 応接室は、完璧でしたわ。

 壁紙が少し剥がれたり、暖炉が動いたりしましたけれど、あれはすべて高度な演出ですの。

 アリサさんも、きっと感心していたに違いありません。

 ただし。

「次は、庭園ですわ!」

 わたくしは屋敷の庭を指差し、高らかに宣言しました。

 伸び放題の雑草。

 絡まり合った蔦。

 枝が好き勝手に伸びた木々。

 庭園というより、森ですわね。

「このままでは、またアリサさんに何を言われるか分かりませんの!」

「前回も、かなり気づかれていたと思いますけど」

 小春が申しました。

「何のお話ですの?」

「……いえ。お嬢様がそう思うなら、それで」

「当然でしょう? アリサさんも随分と感心していましたもの」

「笑っていたように見えましたけど」

「驚きすぎて笑うしかなかったのですわ!」

 どうにも納得していない顔ですわね。

「とにかく、本日中に庭園を見違えさせますの!」

「本日中は無理です」

「わたくしも手伝いますわ!」

 小春が目を見開きました。

「お嬢様が?」

「何ですの、その顔は」

「三分……いや三秒で飽きると思っていました」

「失礼ですわね! 今日は本気ですの!」

 わたくしは作業用の手袋をはめ、庭へ踏み出しました。

 まずは雑草ですわ。

 根元を握って、力いっぱい引き抜く。

「ふんっ!」

 抜けません。

「ふぬぬぬぬ……!」

「腰を痛めますよ」

「この程度、たやすいですの!」

 さらに力を込めた瞬間。

 雑草が勢いよく抜け、わたくしは後ろへ転びました。

「きゃあっ!」

「まだ始まったばかりですよ」

「地面が滑りましたの!」

 立ち上がり、服についた土を払います。

 そのとき。

 茂みの奥から、小さな鳴き声が聞こえました。

「……猫ですわ!」

 白い猫が、こちらをじっと見ています。

 以前、庭で見かけた猫です。

「まあ。また来ましたのね」

 わたくしは、そっと近づきました。

「おいでなさい。特別に撫でて差し上げますわ」

 猫は動きません。

 もう一歩。

 さらに一歩。

「ほら。怖くありませんのよ」

 手を伸ばした瞬間。

「シャーッ!」

「ひゃっ!?」

 猫が背中を丸め、鋭い声で威嚇しました。

 わたくしは反射的に飛び退きます。

「な、何ですの、その態度は!」

 猫はさらに低く唸りました。

「わたくしが誰だか分かっていますの!?」

「猫には分からないと思います」

「この屋敷の主人ですのよ!」

「猫に言葉は通じませんよ」

 わたくしは、もう一度手を伸ばしました。

「さあ。素直に撫でられなさいな」

「シャーッ!」

「むきいいいいっ!」

 また威嚇されました。

「もう何なのです! わたくしがこんなにも歩み寄って差し上げていますのに!」

「距離の詰め方が強引なんですよ」

「猫のくせに生意気ですわ!」

「お嬢様と似ていますね」

「どこがですの!?」

 猫はわたくしを一瞥すると、茂みの奥へ消えていきました。

「待ちなさい!」

「追いかけないでください」

「逃がしませんわ!」

 わたくしは猫を追って、庭の奥へ走りました。

 枝に髪を引っかけ。

 泥へ足を取られ。

 気づけば、最初にいた場所からずいぶん離れていました。

「……猫は?」

「とっくに逃げました」

 後ろから追いついた小春が、呆れた顔で申します。

「それより」

 小春が、最初にわたくしが担当していた場所を指差しました。

 雑草は、ほとんど残ったままです。

「作業、全然進んでませんよ」

「猫が妨害しましたの!」

「猫は何もしてません」

「威嚇しましたわ!」

「お嬢様が勝手に近づいてびっくりしただけですよ」

「主人に向かって失礼ではありませんこと!?」

「猫に怒る前に、雑草を抜いてください」

 小春が、再び手袋を差し出してきました。

 わたくしは受け取りながら、茂みの奥を睨みます。

「次に現れたら、絶対に懐かせてみせますわ」

「まず庭をどうにかしてください」

「分かっていますの!」

 その直後。

 また遠くから、猫の鳴き声が聞こえました。

「いましたわ!」

「お嬢様!」

 庭園の完成は。

 まだまだ先になりそうです。