← わたくし、今日からお嬢様になりますわ!~お嬢様に憧れて何が悪いんですの?~(第一部完結)
第39話
番犬を迎えますわ!
翌日の午後。
屋敷の前へ、大きな車が止まりました。
「お嬢様。番犬をお連れしました」
橘に呼ばれ、わたくしは期待に胸を膨らませながら玄関を出ました。
「どのような犬ですの?」
「温厚で賢く、非常に力の強い犬でございます」
「番犬なのに温厚でよろしいの?」
「必要な際には、十分な迫力がございます」
「まあ。頼もしいですわね」
橘が車の扉を開きました。
最初に見えたのは、大きな鼻。
次に、太い前脚。
そして、車内いっぱいに広がった毛。
犬が地面へ降ります。
立ち上がった姿を見て、わたくしは言葉を失いました。
「……」
大きい。
とにかく、大きい。
背中の高さだけでも、小春の腰を軽く超えています。
頭など、シロが丸ごと入りそうなほどです。
「こちらが、新しい番犬でございます」
「で、でっかぁ……」
思わず、普通の声が出ました。
隣で小春が口元を押さえています。
「いま笑いましたわね?」
「笑ってません」
「目が笑っていますの!」
わたくしは咳払いし、姿勢を正しました。
「まあ、なかなか頼もしいではありませんの」
「お嬢様をご覧になっています」
犬は、じっとこちらを見つめていました。
大きな瞳。
垂れた舌。
ゆっくり動き始める尻尾。
ぱたん。
ぱたん。
やがて、地面を叩くほど激しくなりました。
「橘」
「はい」
「なぜ、こちらへ近づいてきますの?」
「お嬢様を気に入ったようです」
「まだ何もしていませんわよ?」
犬が一歩。
わたくしが一歩下がる。
犬がもう一歩。
わたくしも、もう一歩。
「べ、別に怖がっているわけではありませんの」
「はい」
「少々、距離感を確認しているだけですわ」
次の瞬間。
犬が勢いよく走り出しました。
「ちょ、ちょっと待ちなさいな!」
大きな前脚が浮き、そのままわたくしの胸元へ。
「きゃあっ!」
どすん。
わたくしは、あっさり地面へ押し倒されました。
視界いっぱいに犬の顔が広がります。
「重いですわ! 近いですわ!」
犬は嬉しそうに、わたくしの頬を舐めました。
「ひゃあっ! 舐めないでくださる!?」
小春が首輪を持ち、犬を少し離します。
「大丈夫ですか?」
わたくしは土の上へ座ったまま、息を整えました。
犬は少し離れた場所から、不安そうにこちらを見ています。
「お嬢様を押し倒したことは、覚えさせます」
橘が申しました。
「……びっくり、しましたわ」
いつものように、わたくしが苦しい言い訳を始めると思っていたのか、小春が少し目を見開きました。
「あの子は悪くありませんの」
わたくしは立ち上がり、犬へ手を伸ばしました。
「勢いに驚いたのは、わたくしですわ」
大きな頭を撫でると、尻尾が再び激しく揺れます。
「ただし、次からはもう少し優雅に歓迎なさい」
「わん!」
本当に分かっているのかは、知りませんけれど。