← わたくし、今日からお嬢様になりますわ!~お嬢様に憧れて何が悪いんですの?~(第一部完結)
第73話
弟さんが遊びに来ますわ!
九条院家の本邸を訪れてから数日後、橘が一通の封筒を持ってきました。
「九条院家の弟君からです」
「アリサさんの弟さんから?」
麗奈が便箋を開くと、丁寧な字で短い文章が書かれていました。
『先日はありがとうございました。ノアさんに会ってみたいです』
「……わたくしではなく、ノアが目的ですのね」
「正直でよろしいかと」
「橘まで正直すぎますわ!」
麗奈は少しだけ唇を尖らせましたが、すぐに便箋をもう一度読み返しました。
「まあ、わざわざ手紙まで書いてくださったのですもの。歓迎して差し上げますわ」
「ノアさんを、ですね」
「わたくしも含めてですの!」
当日、九条院家の車から弟が降りてきました。その後ろから、付き添いだというアリサも姿を見せます。
「よくいらっしゃいましたわ」
「お邪魔します」
弟は緊張した様子で頭を下げました。
庭へ向かうと、ノアが弟を見つけ、巨大な身体を揺らしながら駆けてきます。
弟の顔が強張りました。
「ノア、止まりなさいな!」
麗奈が両腕を広げると、ノアは直前で速度を落とし、そのまま麗奈へ大きな頭を押しつけました。
「ぐっ……重いですわ……」
麗奈は押されながらも、ノアを地面へ伏せさせました。
「この状態なら大丈夫ですの。ゆっくり手を出してみてくださいまし」
弟は恐る恐る手を伸ばしました。
ノアは匂いを確かめると、その手へ静かに鼻先を寄せます。
「……あったかい」
「でしょう?」
弟の緊張がほどけ、やがて大きな頭を撫で始めました。
「大きいけれど、優しいんですね」
「わたくしに似たのですわ」
「大きいところが?」
アリサが尋ねました。
「優しいところですわ!」
弟は一瞬驚き、それから口元を押さえて笑いました。
「姉さまのお友達、本当に面白い人ですね」
「立派なお嬢様ですわ!」
「そこは自分で言うところではありませんわよ」
しばらくすると、弟はノアの背中へ乗せてもらうことになりました。
「落ちないように、しっかりつかまってくださいまし」
「はい」
ノアは麗奈のときとは違い、驚くほどゆっくり歩き始めました。
麗奈はその様子を見て、少しだけ不満そうに眉を寄せます。
「わたくしのときは、あれほど暴走しましたのに」
「麗奈さんのときは、ノアも嬉しすぎたのでしょう?」
「愛されすぎるのも困りものですわね」
「嬉しそうな顔で言わないでくださいまし」
弟の小さな笑い声と、ノアの足音が庭へ響いていました。