← 転生転移銀歯独占 〜銀河を独占するはずが、神さまの誤変換で世界中の銀歯を独占しました〜
第2話
第2話:王都で歯医者扱いされる
助けた少女の名前はリリア。
王都の貴族の娘らしい。
倒れた護衛たちは命に別状はなかった。
盗賊に襲われて気絶していただけで、しばらくすると全員目を覚ました。
ただ、俺を見る目だけは妙だった。
「あの、リリア様。こちらの方は……」
「命の恩人です」
「まさか、魔法使いで?」
「銀歯の所有者だそうです」
「銀歯の……?」
護衛の男は、困惑した顔で俺を見た。
俺も困惑した顔で見返した。
俺だって説明できない。
説明できたところでなんか嫌だ。
リリアは馬車を修理する間、俺に王都まで同行しないかと提案した。
この世界のことは何もわからない。
金もない。
宿もない。
スキルは使い物になるか分からない銀歯と歯磨き。
断るはずがなかった。
「助かる。遠くから来たんだが正直、どこへ行けばいいのかわからなくて」
「でしたら、ぜひ王都へ。お礼もさせてください」
「お礼か……」
できれば、剣とか魔法書とか、普通の異世界っぽいものがいい。
銀歯関連以外で頼む。
そんな願いもむなしく、王都に着く前から事態はおかしくなった。
馬車の中で、リリアが遠慮がちに尋ねてきた。
「あの、アヤト様」
「様はいらない」
「では、アヤトさん。先ほどの力は、歯に関する魔法なのですか?」
「魔法というか、事故というか」
「事故?」
「神さまの」
「神さまの事故なんですね……?」
リリアは真剣な顔でうなずいた。
いや、そこは流してほしい。
「この世界には、古い言い伝えがあります」
「言い伝え?」
「はい。歯は心臓に繋がっている、と」
「急に怖い話になった」
「もちろん、本当に繋がっているかはわかりません。ただ、強い魔力を持つ方ほど、歯の痛みや欠けに苦しむことが多いのです」
「それで歯を大事にする文化があるんだ」
「はい。貴族や魔導士の方は、歯の治療に高価な銀を使うことがあります。銀は丈夫で、見た目も悪くないですから」
「銀歯が特別な魔導具として扱われてるわけじゃないんだな」
「少なくとも、私は聞いたことがありません」
少し安心した。
この世界に銀歯ギルドとか銀歯魔導士とかが存在したら、また帰りたくなるところだった。
だが、王都に到着した瞬間、その安心はすぐどこかに消えていった。
リリアに連れられて入った屋敷で、彼女の父親が俺を出迎えた。
立派な口ひげの貴族だったが、表情は険しい。
「君がリリアを救ってくれたという青年か」
「はい。アヤトです」
「礼を言う。娘の命の恩人だ。望むものがあれば、できる限り用意しよう」
来た。
異世界報酬イベント。
ここで俺は生活基盤を得る。
「では、まず住む場所と――」
「その前に、ひとつ頼みがある」
「はい?」
貴族は真顔で続けた。
「国王陛下の奥歯を診てくれ」
「なんで!?」
話が早すぎる。
まだ俺は宿すら確保していない。
しかし、国王は本当に歯で困っていた。
国王陛下は数日前から奥歯の痛みに苦しみ、魔法医も聖職者も治せない。
痛みが出るたびに王城で魔力が暴走し、カーテンを嚙みちぎったり、王冠がふっ飛んだりしているらしい。
「それ、普通に危ないですね。周りが……」
「危ない。だから頼む」
「いや、俺は歯医者じゃないんですが」
「娘から聞いた。君は銀歯の所有者だと」
「それはそうなんですけど、なんか違うっていうか……」
結局、俺は王城へ連れて行かれた。
玉座の間では、国王が頬を押さえてうなっていた。
白髪交じりの威厳ある王様なのに、今は完全に歯痛に負けている。
「うぐぐ……誰か……誰かこの奥歯の魔物を退治せよ……」
「陛下、魔物ではありません」
「では何だ」
「たぶん虫歯です」
俺がそう言うと、周囲がざわめいた。
「虫歯……?」
「聞いたことのない呪いだ」
「虫の魔物が歯に巣食うのか……?」
「そういう感じではないです」
俺は国王の口内を確認した。
正直、人の口の中を見るのは抵抗がある。
だがスキルが勝手に脳内に情報を流し込んでくる。
――所有銀歯を検出しました
――対象:国王レオニス
――状態:魔力過多、噛み合わせ不良、周辺組織炎症
――推奨対応:《歯磨き上手》による清掃、および所有権主張による魔力流調整。
「めちゃくちゃ診断してくるな、このスキル……」
「どうなのだ、青年」
「ええと、まず清掃します」
水と布と、柔らかい小枝のような歯ブラシを用意してもらった。
俺が《歯磨き上手》を発動すると、手が勝手に最適な動きをした。
シャコシャコ。
シャコシャコ。
絢爛豪華な広い空間に、国王の歯を磨く音だけが響く。
シュールすぎて絵面が終わっている。
「おお……痛みが引いていく……!」
国王が目を見開いた。
「なんという神技……!」
「えっ、ただ歯磨きスキルで歯を磨いただけなんですけど」
「歯磨きで奇跡を起こすとは……!」
「ただの歯磨きです」
仕上げに、俺は国王の奥歯の銀歯へ意識を向けた。
盗賊に向けた怒りとは違う。
目の前の人を苦しみから解放したい。
その気持ちを、奥歯ではなく、国王本人に向ける。
「所有権、主張」
銀色の光が一瞬だけ灯る。
次の瞬間、国王の周囲を暴れていた魔力が、スッと整った。
場が静まり返る。
「……痛くない」
国王がつぶやいた。
「痛くないぞ!」
歓声が上がった。
大臣たちが泣いた。
リリアがほっと胸をなでおろした。
俺だけが、納得できない顔をしていた。
国王は立ち上がり、俺の手を取った。
「アヤト殿。そなたは我が王家の恩人だ」
「いえ、そんな大げさな」
「いや、大げさではない。そなたが触れたこの奥歯の銀は、王家に代々伝わる治療の跡でもある」
「治療の跡?」
「うむ。初代国王が戦の最中に奥歯を砕き、銀で補ったとされている。以来、王家の者は歯を欠けば銀を用いて補うことがある」
「王家の伝統が歯科治療なの、地味に嫌ですね」
「だが、まさかその銀にこれほどの意味があったとは」
「はぁ。でもそれ俺の所有物になったっぽいですけど……」
場が、また静まり返った。